最近は歯周病と言う病名は広く知られるようになりました。おそらく我々歯医者よりも歯科関連の製品メーカーのコマーシャル等のプロモーションの方が、その名前を知らしめるために大きな貢献をしていると思います。
歯周病は治るんでしょうか?「治る」、「治癒」等の言葉の定義にもよりますが、元通りに治るという意味で使うのなら、残念ながら治る可能性は非常に少ないでしょう。
ごく初期の歯肉炎ならともかく、骨吸収を伴う中度~重度の歯周炎は治りません。歯周病によって失われた歯槽骨は殆どもとに戻ることは期待できません。
ある一定の適応症の範囲では、かなり以前から「GTR法」、「GBR法」、「エムドゲイン」、「骨移植」etc. の治療法である程度の歯周の骨再生は可能でしたが、元通りに・・・、となると難しいところがあります。
歯周病の治療は基本的には病気の原因となるものを取り除き、炎症を起こし骨吸収が進行しつつある歯周組織の病的な状況を改善させ、健康な状態にもって行く・・・、事です。
外科的な手術を行う(もちろん歯周病の専門医に任せたいです)こともありますが、多くのケースで、基本的な歯周ポケット掻把だけしっかり行った場合と比べて、予後はあまり変わらないと言うデータがあるそうです。(アメリカで私と同窓で、その後向こうの歯周病専門医の資格をとった友人にだいぶ前に聞いたことです)
治療により病原である縁下歯石を除去し、汚染されていた歯根のセメント質の表面を滑沢にすることで、歯ぐきの炎症はおさまり引き締まって(やや退縮します)歯周ポケットは浅くなり、また歯肉が緩んでいた時よりもポケット内にプラークが入りずらくなります。
その健康的な状態を維持出来れば治療は成功ですが、それがまた難しい。病気になる前に比べると骨の支えは弱くなっていますが、それ以上悪くしない為には想像以上に良く歯磨きなどのセルフケアをしなければなりませんが、なかなかやって下さる方は少ないです。
そして治療に終わりはありません。その患者さんの症状によって、3か月、2か月に一度は検診をしてチェックするとともに、自分で清掃出来ないポケット内を機械的に清掃してもらう必要があります。
それを続けて下さった患者さんたちはいい結果を生んでいることが多いですが、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」方も多く、そういう方は何年もたってから悪い状態で来院されて後悔なさることになります。
体のほかの病気、糖尿病であったり、高血圧であったり、多々の病気において病状が安定していてもずっと(多くの場合で一生ですね)定期的に通院しなければならないことと同じ事なのですが、なぜか歯医者の言うことは聞いてもらえないことも多くとても残念に思います。それにより悪くしないようにできた筈の病気を悪化させてしまう患者さんが多くいらっしゃいます。
ちなみに歯周病と言う病名をみなさんによく周知してくれたコマーシャルはいっぱいありますが、残念ながら、宣伝されている薬や用品だけでは歯周病は良くすることは出来ません。なにもしないよりはいいでしょうが、歯科の治療マニュアルに沿って治療を受けることが大事です。薬で簡単に治せるのならどんなに私たちも楽な事でしょうか?