30年前に日本に帰って来たときに驚いたことがいくつかありました。その一つは医療費の差です。
大学でもかなりの人数を治療してきて、医療費はこんなもんだという理解をしていました。アメリカでは歯科大で学生が治療するときの治療費は、普通の歯科診療所の半額程度です。
学生が治療しますから遅いです。でもステップごとに指導医のチェックを受けますから治療の質はとても高いと言えます。ですから結構遠いところから(一時間以上かけても)いらっしゃる方も大勢いました。
見づらいですが、これは数年前に歯科の専門誌で見つけた、日本、アメリカ、スェーデンの歯科医療費の比較です。私がいたころ(1973~1983)のアメリカではこの表の半額以下だったように記憶しています。
例えば、奥歯が虫歯で痛みが出たときですが、ほとんどの場合根管治療から始まります。日本では8700円、アメリカは15~20万円ですね。そのあと歯を保護するためにクラウンをかぶせなくてはいけませんが、これが日本では1万2千円強、アメリカは15~20万円です。
日本の保険治療では患者さんはその3割を負担します。つまり日本で6千円かかる治療費はアメリカで同等のことをすれば30万円以上かかると言うことですね。
クラウンに関しては、アメリカや先進諸国で使う主な材料(セラミック、金、ジルコニア等)は日本の保険ではカバーされませんから、そのような(外国では普通、標準の)治療は日本では自費診療として各医院で費用が違います。
私の医院では12万円前後です。根管治療は保険でカバーされますから、私たちはアメリカやスエーデンの歯医者さんたちの2割以下の報酬しかいただいていません。
みなさんは日本の医療費は高い、と思わされて来ていますが、他の先進国と比較して書かれた記事などを読まれたことは少ないのではないでしょうか?前記のように同じ治療の単価は日本は他の先進国よりはるかに低い水準に抑えられています。
ヨーロッパの保険制度については私は殆ど知識がありませんが、多くの国で何らかの社会保険制度があるように聞いています。
国によって制度も運用の仕方も違うのだろうと思います。ある国では定期検診を義務付け、それを守った場合のみ保険治療を受けられる制度があると聞いた記憶があります。
アメリカでは社会保険制度はありません。(低所得者向けの、いろいろ制約のある保険はあります)ですから痛みに苦しんでいる人でも治療を受けられない事がままあるのです。
これは社会問題にもなっていますから、以前から政府は新たな保険制度を立ち上げようと議会と交渉を続けています。でも医療とはお金がかかるものなんですね。難しいと思います。
日本では個々の治療に関して診療報酬が低く抑えられているおかげで殆どの人々が治療を受ける事が可能です。これはとても素晴らしいことですが、施設の維持、更新等には医療機関はとても苦労します。
治療の質に関しては頑張っていますが、使える材料は限られます。人件費も上げられないし、技工士さんたちや、材料業者さんたちもかなり苦労して経営しています。
ま、大変でない仕事なんてありませんから・・・。
ときどきマスコミが医院(医であったり、歯であったりですが)の一か月の収入は・・・と言う記事を作ることがありますが、収入とは売上であって利益ではありません。収入マイナス経費の利益が・・・、と言う記事はあまり見ませんね。何故なんでしょうか。
歯科の場合、一度のアポイントメントにかかる治療費の平均は4千5百円程(3割なら千5百円)だそうです。治療によっては大きなケースでは患者さんの負担が1万円を超えることもたまにはあります。少ない時は2百円くらいのときもあります。
高いと思われるかも知れませんが、患者さんがお支払いになった額の約3倍が私たちの取り分だと思って頂ければ、私たちの収入はわかります。そこから家賃、人件費、技工料金、etcを引くと利益になります。
他の国々と比較してしまうと悲しい報酬ですが、日本のみなさんはいつでも(他の国よりはるかに安い費用で)だいたいのケアは受ける権利がある、と言うことは素晴らしいことだと思います。
アメリカの大学で救急歯科のローテーションに入った時、簡単に痛みを取ることが出来、治療可能なケースなのに、それをするための費用がないため、(抜歯のほうがはるかに安く済むことも多く)抜かざるをえなかったり、痛み止めを処方することしか出来なかったこともありましたから・・・。
2014年2月24日 カテゴリ:アメリカの歯医者の話, 歯の話