インプラントと本物の歯の違いを考えて見ます。解りやすく、単純化して見ますと、いちばん大きな、そして重要な違いは歯根膜の有無です。
歯根膜とは天然の歯根と顎骨の間に介在する組織です。噛む力から歯や顎の骨を守るクッションの役目もすれば、骨を丈夫にする力も持ちます。また歯の矯正において、歯が動く方の骨を吸収させ、逆の方では骨を作っていきますが、それに重要な役割をします。
人間の体(自然と言ったほうがよいかな?)はなんと上手く出来ているのだろう!と驚くようなメカニズムで体を守っています。図の左上の四角部分で拡大してあるのは、歯根膜繊維(シャーピーズ・ファイバー)と言って、歯根膜の中で歯根と骨を繋いでいる繊維です。これが重要な役割を果たします。
人間は自分の体に、造骨細胞(骨芽細胞)と破骨細胞を持っています。前者は骨を作ります。(かなり単純な説明ですが)後者は骨を吸収します。新陳代謝に欠かせないですね。
また、骨の性質ですが、(かなり単純に書きますと)骨を押すと、押された部分で破骨細胞が活性化して骨を溶かして行きます。逆に引っ張ると骨芽細胞が活性化して新しい骨が作られます。自然界ではこういった不思議な現象が誰も気づかぬうちに起こっているのです。
さて、天然歯の場合です。私の拙い絵で申し訳ありません。単純化して解りやすくしたつもりです。歯根と顎骨の間の歯根膜はクッションの役割をして歯にかかる力を和らげます。
また歯根膜の中で糸のような繊維が歯と骨に癒着して両者を繋いでいると思って下さい。根が赤い糸に繋がれて、骨からぶら下がっているような感じです。
何かを噛むと、根は押されて下がります。すると赤い糸(歯根膜繊維)が引っ張られて、ピンと伸びます。そうするとその糸が癒着した部分の骨を引っ張ります。それにより骨芽細胞が元気になり、表面で骨が作られ、丈夫になります。本当によく出来ていますよね。
勿論あまりに強い力がかかって糸が切れてしまえば、歯は脱臼して抜けてしまいますが、適度な力で咬合する限り、骨と歯の関係は守られます。
対して、インプラントですが、骨との間に歯根膜は出来ません。ですから噛めば骨を押す力のみかかります。結果として破骨細胞が元気になり骨は溶かされて、インプラントの支えが弱くなって行きます。
初期のインプラントに失敗が多かったのも頷けます。しかし長い間に先駆者たちはいろんな工夫をして骨にあまり負の負担がかからないようにして来たのでしょう。インプラントの場合は骨とインプラント体を癒着させることで安定を図っています。うまく癒着しなければ咬合力で骨は吸収されるリスクが高くなります。
そういうことがなくとも人間の体は異物が体内に入るとそれを取り除こうと努力して我々を助けてくれていますから、その中で近年インプラントの予後が良くなっているのですから、それは素晴らしいことだと思います。適応症であることを確認し、正しい術式でなされたインプラントは予後もよく長持ちします。適応症でなければインプラント手術はしてはいけません。
私はインプラント治療をする技術、経験、知識を持ち合わせておりませんから、その治療は出来ません。インプラント治療をなさる先生方は、ここで書いたようなことはもちろんよく勉強されている方々でなければいけませんし、外科、歯周病、歯周外科の知識、経験、技術を持ち合わせている先生でなければいけません。
当院で火曜、水曜の二日間診療なさっている根本先生は私の大先輩ですが、先に述べたような知識、技術、経験の豊富な先生です。衛生病院の歯科部長をなさっていたころからかなりの数のインプラント治療をされてきていますが、非常に良い予後の患者さんが多いのです。
インプラント適応のケースであり、インプラント希望の患者さんには、一度根本先生のカウンセリングを受けて頂き、顎骨の状況であったり適応症であるか?等の診察をして頂いてから納得された患者さんにはまずCT検査をしてからインプラント治療可能であることを確認してから治療に進むようになります。ご希望の方、インプラント治療に関して御相談されたい方は遠慮なくお申し付け下さい。
勿論リスクがゼロの治療はありませんから、十分に納得されてから治療を受けられることをお勧めしたく思います。時には思うような結果が得られない可能性もゼロではないからです。またそれはすべての治療に言える事ですね。本物の歯はお金で買えない素晴らしいものです。元通りにすることは人間には不可能なのです。ただ、少しでも良い治療をして機能の回復の為最善をつくすことが大切です。その為に私たちに出来るだけのお手伝いをさせて頂きたいと願っています。