今全米プロゴルフトーナメントが行われているバルタスロールゴルフクラブで1980年に全米オープンが開催され、ジャック・ニクラウスと日本の青木功選手が今でも語り継がれる熱戦を繰り広げました。
その時は私はまだアメリカにいましたから、日曜日の午後の二人のバトルを生中継で放送していたテレビにかじりついて見ていました。
その2年前に世界マッチプレーで優勝した青木選手ですが、その試合(世界マッチプレー選手権)はアメリカではあまり権威ある大会とは位置づけられていませんでしたから、彼の実力はまださほど高く評価されていなかったのです。
ですからこのUSオープンでのニクラウスとの4日間にわたる死闘が青木を「世界の青木」として認識させた一戦だったと言っても過言ではないと思います。
この試合についてはいろいろな報道がなされ、日本ではいまだに語り草になっているくらいですからその試合経過等、多くの方々がご存じだと思います。
最後の18番でニクラウスがバーディーパットを決めて優勝を確定した後、グリーンになだれ込んで来ようとする人たちをニクラウスが押しとどめて青木選手に最後のパットを打たせた事は有名です。いまでもユーチューブでそのシーンは見ることが出来ます。
あまり知られていないことがあります。この試合のあとで青木選手が先にホールアウトしてニクラウス選手にウイニングパットを打たせるべきだったのに、青木が50センチのパットをマークしてニクラウスに2メートルのパットを打たせたことを一部のメディアが批判したのです。
ゴルフではカップから遠い方から順番に打つ、と言うしきたりがあります。プロの試合ではグリーンに乗っているいないにかかわらず遠い方から打って行きます。ただ、トーナメントの最終日、最終組、最後のホールではそうしないこともあります。ウイナーがカップインしたところで試合を終わらせる為です。
そうですね、2打差で続く青木選手がバーディーをとってニクラウスがスリーパットすれば同スコアで並びます。ただパットの名手ニクラウスが2メートルからスリーパットすることは非常に考えづらい状況です。こういう場合は青木選手が「お先に」ホールアウトしてニクラウスに後から打たせるのがゴルフ界の慣例であり勝者に対する礼儀だったと言えるでしょう。
そのパットが入らなくてもウイニングパットをタップインするだけです。ですから実際リアルタイムで観ていた私もそう感じていました。でもニクラウスは青木の為に観衆を押しとどめただけでなく、この事に対するメディアの批判からも青木を擁護したのです。
多分青木選手は(私がその時感じた事ですが)その勝負に完全に気持ちが入っていってしまっていて、そういう慣例の事など頭をよぎりもしなかったのではないでしょうか?最高の舞台で最高の勝負をして来たからです。
ただ、青木選手のその時の思考状況はとにかくとして、「これだけの戦いは最後に何があるかわからないんだから、勝負に徹して短かいパットをマークして相手にプレッシャーを与える事は勝負師としてはあることだよ・・・。」と青木選手に批判的なメディアに反論してくれたのですね。この話はもっと知られてもいいように思います。
もう一つ、いい(?)話があります。これはネットでその時の動画を見ればわかります。青木選手が最後のパットを入れて、ニクラウス選手と健闘を称え合います。その時にニクラウスが青木選手の頭を軽く叩き、また撫でて「お前、よくやったなぁ・・・」とでも言っているような雰囲気です。
青木も死闘を終え、ホッとしたのでしょう、悔しがるそぶりもなく「有難うございます」と頭を下げます。そしてニクラウスがまた子供を褒めるように青木選手のの右頬を軽くタップします。二人ともホントウに相手に対する敬意で一杯のシーンでした。
いいシーンだったので今でもよく覚えていますが、こうしてネットにいくらでもこの時の映像があると言うのは・・・、いやいや・・・、凄い時代になったもんだ・・・と、年寄りはすぐそういう風に思ってしまうのです(笑)。
本当に話したい「いい話(?)」はこの後日談です。83年(この3年後ですね)に私は歯科大を卒業して日本に帰って来ました。(丁度その年の初めに青木選手がハワイアンオープンで劇的なPGA初勝利した瞬間も私は向こうで見ました。)帰った当時はまさにAON時代と言われる日本ゴルフの黄金時代でした。毎週私も日本のゴルフトーナメントをテレビで観ていました。
そうしましたらですねぇ・・・、青木選手は一年に何勝もしていましたが、勝った時に優勝争いをしていた若い選手の頭をなでて「頑張ったなぁ・・・」みたいに言ってるんです。以前はこんな行動はしなかったんじゃぁないかなぁ・・・?と、考えてみると・・・、ハッハァ~~~。解ったぞ~(笑)!
これは全く私の個人的見解です。あのバルタスロールでの死闘のあと、気持ちが落ち着いてからきっと青木選手は考えたのです。「あれ、ニクラウスって俺より2歳上なだけじゃん!」
ニクラウスと言えばその20年近く前からスーパースターでした。日本にも何度も来ています。ニクラウス、パーマー、プレーヤーのビッグスリーゴルフと言うテレビ番組は私も子供の頃いつも観ていて「僕も大人になったらゴルフやりたいなぁ・・・」と思わせてくれた番組です。
そんな世界のスーパースターと互角の勝負をしたのです。終わってしまえばやはりスターの前では謙虚になってしまっていた青木選手がそこにいました。歳はたった2歳違いでもゴルファーとしてはちょっと名前負けしてました。
全く私の個人的見解ではありますが、きっとあとで冷静になって考えてみると、人一倍負けず嫌いなはずの青木さんですから、ちょっと悔しくなって来たんだろうな・・・。まるで子ども扱いされたように感じたのかも知れません。
日本の試合になると、ニクラウスのように若手の頭を叩いて撫でて、激励するようになったのはそういう理由だったんだ・・・、と(何回も言う通り全くの私の個人的見解です)勝手に納得しました。ま、いいんじゃないでしょうか(笑)。青木さんは日本ではニクラウスのような伝説的ゴルファーの一人なんですから・・・。
閑話休題、劇的なフィナーレの舞台となった18番ホールは550ヤード程のパー5です。当時日本では飛ばし屋で鳴らした青木選手はウエッジでサードショットをピンまで50センチに寄せました。スリーオンです。今回の全米プロの練習ラウンドで松山選手は5アイアンで2打目を打って乗せたそうです。
きっとダスティン・ジョンソンやバッバ・ワトソンなどはショートアイアンでツーオンさせて来るのではないでしょうか?いやはやなんて時代になったんでしょう?パー5のセカンドをミドルアイアンで打つなんてつまらなくないのかなぁ(笑)?
さて、現在進行中の全米プロに出場している3人の日本選手は好調です。全員上位で決勝ラウンドに進んでいます。3日目は悪天候のためサスペンデッド、松山選手はスタート出来ませんでしたが暫定10位です。ただ明日は一日で2ラウンド消化しなくてはいけない厳しい最終日になりますが、池田選手、谷原選手共々期待しましょう。
かつてこのコースで激しい優勝争いをした青木功さんのように、いつか日本選手がまた世界を湧かせる日が来てくれる事を期待したいと思います。
2016年7月31日 カテゴリ:スポーツの話